受験勉強やテストの結果にだけに気を取られない
不登校の子どもを持つ親が抱える心配の中で、大きなウェイトを占める事柄に「勉強の遅れ・学力の低下」があります。
学校に行かないことで勉強ができなくなる、と考えるのは早計です。
もともと不登校の子の中には学校のカリキュラムに合わず、授業が苦痛で学校に行かないというケースがあります。
その場合、学校に無理に行くことで彼らの持つ才能や良さをなくし、十分な力を発揮できないことになりかねません。
逆に学校に行かないことで一時的な勉強の遅れを取り戻すケースはたくさんあります。
昔、カウンセリングをした男の子に、学校の勉強がからっきしできない小学生の男の子がいました。
しかし、彼はおそるべき才能を持っていました。
東京都の電車の路線と駅名をすべて暗記していたのです。
ご両親は彼の成績の悪さを嘆いていましたが、ボクの考えはまったく別。
「なんだ、この子は天才じゃないか!」
現在、東京にある駅はJRの駅だけで173駅、私鉄、地下鉄もあわせると630駅もあります。
加えて路線は合計62線。彼と同じように暗記できる人は どれくらいいるでしょうか。
少なくともボクにはできません。 国語や算数のテストよりもずっと難しいことです。
彼は学校の友だちや先生になじめないタイプの不登校でした。
なら、家で ゆっくり休めばいいだけです。
中学には行こうと決意したようですが、
公立だったために人間関係の持ち上がりが苦痛になり、1日しか行きませんでした。
そのため不登校のまま自分に合った高校に進学する道を選びました。
休んだことでのびのびと勉強する楽しさを見つけたのでしょう。
もともと暗記力がずば抜ていたこともあり、進学した後、成績はぐんぐん上がりました。
ご両親が「勉強ができない子」と悩んでいた彼は、最終的には慶應大学に進んでいます。
もし、無理に学校に行かせていたら、彼の暗記力や賢さが発揮されることはなかったかもしれません。
学校の勉強が苦手。どうすればいい?
学校に行かないことで勉強が遅れているという子に対しては、まず抵抗のない科目から勉強していくことをすすめています。
「好きな科目、得意な科目」とは少し違うことがポイントです。
不登校の子は「社会が好き、歴史が好き、美術が好き!」などと言いだせない状態であることがほとんどだからです。
というのも、受験やテストの成績ばかりに重点を置く現在、
いわゆる「国語・算数(数学)・英語」以外の教科は重要視されない傾向があります。
いくら子どもが社会が好きでも「そうなんだ、それもいいけど、算数も頑張ろう ね」となってしまいがちです。
そうしているうちに子どもは勉強に対する意欲や興味を失ってしまうのです。
やる気を引き出すためには「興味」が大切
たとえば、社会情勢に興味がある子なら、小学生でも高校の資料集を与えてしまいます。
興味があることをさらに広げられることがわかると子どもたちは進んで勉強を始めます。
レベルの高い資料集を読むために国語力が必要だとわかれば国語の勉強をするでしょう。
子どもはそうやってどんどん知識を吸収して学力を伸ばしていきます。
そして、それこそが勉強の本質だと思うのです。
こんなことがありました。
テレビを見ているとき、昆虫学者の長谷川仁博士のエピソードが紹介されました。
昆虫は新種を発見すると発見者に命名権が与えられます。
長谷川博士は生涯を通じて多くの昆虫を発見してきましたが、もっとも有名なのはカメムシ「エサキモンキツノカメムシ」。
背中にハート模様がある珍しい種類です。学名は「Satragala esakii HASEGAWA」。
博士が敬愛していた昆虫学者、江崎悌三博士と自身の名前がつけられています。
長谷川博士は、新種を発見するにあたって、小さなカメムシのツノの角度を一匹ずつ、一本一本、測って調べました。
大変な時間と労力です。
このエピソードを知りボクは「これこそが勉強の、学問の本質だ!」と感銘を受けました。
本来、勉強とは、興味のあるものをとことん追求することなのです。
しかし、もしあなたの子どもが学校に行かず、虫の尻尾やツノの角度を一日中、調べていたらどうしますか。
「いつまでもそんなことをしていないで勉強しなさい!」
と叱るのではないでしょうか。
そしてあなたは、子どもが大発見をするチャンスを潰してしまうのです。
子どもに勉強をして欲しいと思うなら 「学校の勉強をしなさい」というよりも本人が興味を持つものを見つけることが大切です。
そして、じつはそれは「勉強をして欲しい」というあなたの願いを叶える近道でもあるのです。
特技があるならそれを認めてほめてあげてください。
間違っても 「その情熱が勉強に向けられたらね」
なんていうことは言わないように気をつけましょう。
「学校に行くことや勉強よりもあなたのすることに興味がある」
ということがわかれば、子どもは自然と勉強に興味を示すようになります。
(この記事は、REO代表の阿部の著作『不登校は天才の卵』の内容を改変して作成しています。書籍の詳細はこちら)